変革の1年を振り返る 筑波大学女子サッカー部|前編
はじめに
今年で創部33年目を迎える筑波大学女子サッカー部。
その長い歴史の中で、この1年間は“変化”の年となった。
現在、筑波大学は、強豪ひしめく関東大学女子サッカーリーグ戦、いわゆる関カレの1部に所属している。
関カレ1部の10チーム中9チームは、精鋭揃いでチーム規模の大きな私立大学だ。関カレ1部において、唯一の国立大学である筑波大学は、選手のレベルが初心者からなでしこリーガーまでと桁違いに幅広い。
さらに、推薦枠はなく、強豪チーム出身の選手は僅かである。
筑波大学は、最盛期にインカレ準優勝を果たしたものの、その後5年間はインカレ出場を逃しており、一昨年には関カレ2部降格。また、関東女子サッカーリーグ(通称:関東リーグ)でも2部降格を経験するなど、低迷が続いていた。
しかし、昨シーズンのある“変化”によって関カレ1部へ昇格。
今シーズンは、関カレで7位となり5年ぶりのインカレ出場を決めた。(関東リーグ2部では、優勝、1部昇格を決めた。)
それではなぜ、国立大学で初心者も所属する筑波大学女子サッカー部が、 “インカレ出場”という快挙を成し遂げることができたのか。どのような“変化”が筑波大学を再びインカレの舞台に導いたのか。
その理由をオフザピッチ、オンザピッチの両側面から探る。
筑波大学女子サッカー部の“三角形”
筑波大学女子サッカー部の“変化”の理由を探るにあたり、まずは、代々掲げている“三角形”を見ていきたい。
この“三角形”は、ビジョン、ミッション、アクションで構成されており、ビジョンを達成するためにミッション、ミッションを達成するためにアクションがある。
また、この全ての土台には、信頼・向上・徹底がある。
この“三角形”の構図は、これまで部内で受け継がれてきたものではあるが、その解釈や具体的な設定は、シーズン始動前に最上級生となる学年がミーティングを重ねることで、毎年更新されている。
筑波大学女子サッカー部が掲げてきたビジョンの枠組みは、“魅力あるチーム” “輝ける人”。
今シーズンの“魅力あるチーム”の解釈は、「サッカーを愛して楽しめるチーム」 「高校生に入りたいと思ってもらえるチーム」 「地域の方に応援してもらえるチーム」「OGの方が誇りにできるチーム」。
“輝ける人”とは、「女サカで過ごす中で、社会で活躍できる何かを得て、表現する努力ができる人、それを全力で頑張れる人」である。
「その2つを目指していけば、競技力向上にもつながる。競技力が向上してインカレに行ったら、オンザピッチでも“魅力あるチーム” “輝ける人”になれる。オンザピッチとオフザピッチどちらかではなく両方で目指している。」と、現在主将を務める、4年の辻野友実子は話す。
筑波大学女子サッカー部は、オンザピッチ、つまり、競技力の向上のみに重きを置くのではなく、オフザピッチでの取り組みにも、チームとして力を入れているのである。
これは、 “インカレ出場” “関東リーグ1部昇格”というオンザピッチにおける競技目標だけでなく、“サッカーの普及”“人間的成長”といったオフザピッチにおける目標も設定しているミッションを見れば明らかである。
これだけオフザピッチの部分に目を向け、組織全体で具体的な目標まで設定しているチームは珍しいのではないだろうか。
では、オフザピッチの目標である“サッカーの普及” “人間的成長”を達成するために、筑波大学女子サッカー部は、どのように取り組んでいるのだろうか。
オフザピッチ
文武両道を極める
筑波大学は、体育会系の部活動が盛んであり、様々な競技において好成績を収めている。
また、幅広い分野において最先端の研究が行われていることでも名高い国立大学だ。女子サッカー部には多様な学類の学生が所属しており、部活動以外の時間では1人の筑波大学生として、日々実習や授業、実験などハイレベルな環境で学びを深めている。
生物資源学類3年の野島優希子は、自分の好きなサッカーと生物資源学類の勉強、どちらも両立していくために、スケジュール管理を徹底しているという。
野島 試合や練習のコンディションを考慮すると、テストがあっても徹夜するわけにはいかないので、直前の追い込みがききません。そんなときでもテスト数週間前からしっかりと計画を立てて勉強を進め、直前は少しの時間も無駄にしないようにしています。
医学類1年の谷井沙樹は、入学当初、サッカーを続けないことも考えたが、毎月テストがある中でも、週6日サッカーを続けるという今の生活を選んだ。
谷井 同じように医学類で部活に入っている友達と助け合っています。4年間サッカーを頑張って、しっかりと医師の国家資格も取りたいです。どちらもできる環境が筑波にはあるので。
やると決めたからにはどうしたらできるかを自分で考えて行動し、やり切る。
この真面目さが基盤にあり、それが、筑波大学女子サッカー部の強みなのではないだろうか。
全員が役割を持つ~組織図の存在~
筑波大学女子サッカー部では、組織図に基づき、部員全員がそれぞれ役割を担っている。
サッカーのレベルに関係なく全員が平等に役割を持ち、上の学年が下の学年を助け、下の学年も上の学年をサポートするという関係性を作ることで、信頼が生まれ、縦のつながりも強くなっている。
今シーズンは、運営面以外にもメディカル係、GPS係(※シーズン途中から発足のため組織図にはない)、有志の分析班など、オンザピッチに関わる役割が更に増え、競技力向上に向けても選手がより主体的に動くようになっている。
また、“女子サッカー部をもっと盛り上げたい”、“大学スポーツを通してサッカー以外にもいろいろなことに挑戦したい”と、自分の担当以外の活動にも積極的に関わっていこうという雰囲気があり、広報活動やサッカー普及活動などにも、よりいっそう力を入れている。
サッカーの普及
オフザピッチにおける大きなミッションとして掲げている“サッカーの普及”。
ここからはその具体的な取り組みについて迫っていく。
地域の子供たちとサッカーでつながる
部員の多くが、つくば市内のサッカー少年団にコーチとして所属しており、筑波大学蹴球部と協力して、子どもたちにサッカーを教えている。
その中でも女子サッカーの普及は、普及班を中心に特に力を入れている。
“つくば少年少女サッカー連盟なでしこクラス”では、つくば市の女の子達を集めて毎月1回練習会を開いており、長期休みには合宿も行なっている。
今年度は、参加者が昨年の1.5倍に増加、40人を超えた。
自分たちがこれまでサッカーをしてきた中で、やりづらさや、それによって仲間が辞めていく経験等をしてきたからこそ、女の子だけでサッカーをできる機会を作ることに強い思い入れがある。
普及班として連盟なでしこクラスのヘッドコーチを務める、2年の太田芽依は、普及活動についてこう語る。
太田 女子だけでサッカーをやれる環境を提供して、サッカーを楽しんでもらいたいです。
そして、地域との交流を深め、筑波大学女子サッカー部を知ってもらうこともこの活動の目的の1つです。やりがいを感じるのは、自分が指導したことを意識してくれて、いいプレーになった時ですね。
でも、子供たちに大事なことをいかに絞って伝えるかはとても難しいです。月に1回の練習でどうすればより良いものを1つでも持って帰ってもらえるか、いつも悩みながら一生懸命考えています。
今はフェス型のサッカー教室を単体で開催することを計画中で、連盟の子はもちろん、もっと遠いところの女の子たちも集めたいと思っています!
全国大学女子サッカーつくばフェスティバル
さらに、筑波大学女子サッカー部は、女子サッカーの普及と発展を目指した大会、「全国大学女子サッカーつくばフェスティバル」(通称:つくばフェスティバル)を、毎年開催している。
今年度で27回目の開催を迎えるつくばフェスティバルは、毎年、全国の創部間もないチームからインカレ出場チームまで、幅広いレベルのチームが大会に参加する。
つくばフェスティバルでは、全ての参加者にとって、意味のある大会とするために、どのような運営を行ってきたのだろうか。
まず、つくばフェスティバルには、2つのリーグが存在する。
1つは、競技レベルをさらに高めたいチーム、インカレ出場レベルのチームなどが参加する、11人制の “一般リーグ”。
もう1つは、つくばフェスティバル独自の、“チャレンジリーグ”と呼ばれる8人制のリーグである。
大学女子サッカーの現状をみると、すべての大学が恵まれた環境でサッカーに取り組むことができているわけではない。
部員や指導者不足、不十分な設備等に悩まされ、サッカーをする環境が整っていない大学はまだまだある。
チャレンジリーグは、そうした試合経験を積むことが困難なチーム、11人に満たないチームにも、試合経験を積んでもらい、チーム・個人のレベルアップを図るとともに、サッカーの魅力を改めて感じられる場にもなっている。
この2つのリーグによって、全国から幅広いレベルのチームの参加が可能であり、試合機会を提供することで、女子サッカー界全体のレベルの底上げ、それによる発展を図っている。
また、女子サッカーの普及と発展のための要素は試合だけにとどまらない。
つくばフェスティバルの開催期間中には、試合と並行して、イベントも行われる。イベントには、参加者初心者講習会、副審講習会、大学生イベントの他、小学生以下の女子を対象とした少女サッカー教室もあり、様々な交流を通して、サッカーの楽しさを感じてもらい、サッカーの普及につながるようなイベントとして企画する。
こうした、大会の準備や企画、運営は決して簡単ではない。何十回もミーティングを重ねるなど、多くの時間と労力をかけ、大会の成功を目指す。
この大会を通じて、女子サッカーの普及と発展を目指すためには、大会参加者が参加してよかった、意味のあるものだったと思ってもらうことが大前提である。そのためには、ただ続けるのではなく、試行錯誤を積み重ね、より良い大会を創り上げる必要がある。
今年度は、例年の夏開催日程が、参加者のコンディション等の理由から見直され、春開催が提案された。開催日程の変更については、様々な意見が飛び交ったが、最終的に全国の大学女子サッカーチームに対してアンケート調査を行った。その結果、史上初となるつくばフェスティバルの春開催が決定した。
今年度実行委員長を務める、3年の中田貴子は、春のつくばフェスティバル開催に向けてこう話す。
中田 今年は、開催日程を夏から春に変更して最初の大会となるから、まずは、しっかりと大会を運営するというところに重きをおいて、今後の基盤となるような大会にできたらいいなと思っています。
そして、参加大学の方々に、試合はもちろん、他の大会ではできないような様々な交流の機会となるイベントを通して、つくばフェスティバルに来てよかったと思ってもらえるような大会にしていきたいです。
ここまで、筑波大学女子サッカー部のオフザピッチの取り組みに迫ってきた。そこから見えてきたのは、選手たちの、何事にもひたむきに取り組む“真面目さ”と、“サッカーの普及”を目指す中で育まれてきた“主体性”だった。
前編では、主に“オンザピッチ”での取組について書いてきたが、後編では、“オンザピッチ”での変革について紹介していく。
後編では、筑波大学女子サッカー部“らしさ”を追求しチームを強化してきた、ヘッドコーチの視点からも筑波大学女子サッカー部に迫る。
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