現場の声で、大学スポーツを変えていく|早稲田大学ア式蹴球部
この記事でわかること
大学サッカーの現状課題現場が考える解決策
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54194人 vs 6012人
なんの数字だかご存知ですか?
正解は、とあるサッカーの全国大会決勝戦の観客数の比較。
前者が全国高等学校サッカー選手権大会、後者が全日本大学サッカー選手権大会。
同じ学生スポーツ。
同じサッカーという競技。
なのに、ここまで観客数に大きな差が生まれるのはなぜ?
悔しくないですか?
僕は悔しいです。
だからこうやって文章を綴っています。
高校サッカーと大学サッカーの間にここまで大きく差が開く原因は様々あると考えられます。一概に「これ!」とは言い切れない。
例えば、イメージの問題。
サッカーでは、今や「高卒プロ」という流れが一般的となり、大学は「高卒でプロになれなかった選手が行く、いわば“掃き溜め”のようなもの」という見方をされることも少なくない。
確かに、早い時期から競技力の高さを認められ、高卒の段階でプロ選手としてキャリアをスタートさせることができるというのは尊敬に値するかもしれません。
しかし、「高卒プロ」が絶対でしょうか?
また、野球の甲子園大会や全国高校サッカー選手権が開催されると、メディアが「学生最後の〜」などという取り上げ方をするのをよく目にしたり、耳にしたりします。でも、本当の意味での学生スポーツの終わりは大学ですよね。
おそらく、大学スポーツはどこか勘違いされているのだと思います。
その「勘違い」が長年に渡って蓄積された結果、イマの「大学スポーツの評価」が形作られたのでしょうか?
その「勘違い」は、現役体育会生自らの手で紐解かなければならない。
大学スポーツの「中」の人間が声をあげなければならない。
だから私は声を上げ続けます。
大学スポーツの明るい未来を信じて。
現場に立ってみて初めて感じた大学スポーツの課題
現在、私は早稲田大学ア式蹴球部でマネージャーを務めている傍ら、関東大学サッカー連盟(いわゆる、“学連”)という組織にも所属しています。
二足のわらじを履いて活動することで、マネージャーとしては早慶サッカー定期戦、学連としては普段のリーグ戦やインカレなどを「運営する」立場となりました。
「参加する」「観戦する」ではなく「運営する」立場となることで、大学サッカーの課題がかなり見えてくるようになりました。
中でも大きな課題として挙げられるのが「集客」です。
事実、大学サッカーは集客で苦戦しています。
リーグ戦では、1,000人すら入らない試合がほとんどです。
自身の集客経験も踏まえて考えてみた結果、大きく以下の4つの要因が浮かび上がってきました。
①そもそも大学サッカーに興味がない
②試合と予定が被った
③スタジアムが(駅からも)遠い
④チケット代を1000円も払えない
このうち、①②が全体の大半を占めていると思われます。
③④に関しては、「大学サッカーに興味はあるんだけど…」という人たちの意見の印象です。
興味を持ってもらうこと、注目度を高めることは大学サッカーだけでなく、あらゆる大学スポーツの課題であり、対処しなければならないのですが、まずは、コアな大学サッカーファンも存在する③④の層を確実に集客に繋げるために尽力した方が効率的ではないかと考えます。
そこで、③④に関連付けて、私が感じる大学サッカーの課題と、私なりに考えたその解決策をお伝えしたいと思います。
大学サッカーの課題‐スタジアムが(駅からも)遠い‐
例えばJ1の場合、リーグ戦は年間34試合ありますが、そのうち最低でも17試合は自分たちのホームタウン内にあるホームスタジアムでリーグ戦を行うことができます。
一方、大学サッカーは....
〈昨季リーグ戦で早稲田大学が使用した試合会場〉
第1節 龍ケ崎市陸上競技場たつのこフィールド(茨城県龍ケ崎市)
第2節 味の素フィールド西が丘(東京都北区)
第3節 夢の島競技場(東京都江東区)
第4節 浦和駒場スタジアム(埼玉県さいたま市)
第5節 東京国際大学坂戸キャンパスサッカー場(埼玉県坂戸市)
第6節 フクダ電子アリーナ(千葉県千葉市)
第7節 法政大学城山サッカー場(神奈川県相模原市)
第8節 味の素フィールド西が丘
第9節 龍ケ崎市陸上競技場たつのこフィールド
第10節 岩名運動公園陸上競技場(千葉県佐倉市)
第11節 Shonan BMW スタジアム平塚(神奈川県平塚市)
第12節 味の素フィールド西が丘
第13節 県立保土ヶ谷公園サッカー場(神奈川県横浜市)
第14節 Shonan BMW スタジアム平塚
第15節 笠松運動公園陸上競技場(茨城県ひたちなか市)
第16節 笠松運動公園陸上競技場
第17節 江戸川区陸上競技場(東京都江戸川区)
第18節 三ツ沢公園陸上競技場(神奈川県横浜市)
第19節 味の素フィールド西が丘
第20節 フクダ電子アリーナ
第21節 味の素スタジアム西競技場(東京都調布市)
第22節 味の素フィールド西が丘
上記のように、大学には関連のない各地で行なわれます。(少なくとも関東ではそうです)
ただ、リーグに所属する大学が増え、年間多くの試合をこなさなければならない現状や、借用させていただいているスタジアムの年間利用スケジュールなどを考慮すると、各地で試合を開催することには理解を示さなければなりません。
しかし、これだと大きな問題が。
各大学の練習場近辺やキャンパス近辺での普及活動が、リーグ戦の集客に直接的に結びつかないのです。
これが大学サッカーの難しいところであり、最大の伸びしろだと考えています。
我々早稲田大学ア式蹴球部は、東京都西東京市の東伏見にあるグラウンドを拠点として日々活動をしています。
そして、地域の子供向けにワセチャレと呼ばれるサッカー教室を開いたり、留学生とのサッカー交流会を開催したりするなど、日頃から地域での社会貢献活動に努めています。
しかし、東伏見に住んでいる方々が、はるばる遠方まで足を運んで「試合を観に行きたい!」と思ってくださるでしょうか?
答えは、おそらく「NO」です。
実際、笠松で行われたリーグ戦の観客数はとんでもなく少なかった印象があります。
理想をいえば、日本の各大学がアメリカのように立派なスタジアムを持てるようになることが好ましいです。
自由に使えますからね。それに加えて、地域の方々も足を運びやすくなります。
でも、現実問題それがすぐに実現するとは思いません。
「各大学のホームタウンにおける普及活動とリーグ戦の集客を直接的に結びつける」という観点から考えれば、各大学が普段から練習場としているグラウンドで、リーグ戦をホーム&アウェイ方式で行なうことが解決策の一つであると思います。
現状は、1,000人近い観客を収容できる立派なスタンドを持つ大学もあれば、グラウンドにスタンドが併設されていない大学もあるため、公平性を保つという観点で考えると、実現させるためにはまだまだ解決すべき問題が散見されるように感じます。
そこで、私なりにこのような現状を打開するための解決策を考えました。
解決策1:スタジアム周辺の地域の方々を無料招待する
これは、リーグ戦を行なっているスタジアムのある市区町村に在住(在学・在勤)の方を無料招待するというものです。
リーグ戦で使用しているスタジアムの多くが公園内にあり、地域の人々の散歩コースになっていたりと、地域にとって身近な存在となっています。そこで、先述した大学サッカーの課題を逆手に取り、スタジアム付近に在住している方々を新たな集客のターゲットにすることで、観客増員につなげていく方が効率的だと考えました。これは、各大学も今までターゲットとしてこなかった層を新たに取り込むことになります。
しかし、集客をする大学側にだけメリットがあっても、それはいい案とは言えません。
スタジアムのある市区町村にとってのメリットを考えてみました。
そこで浮かんできたのが、大学サッカーの試合を通した地域活性化やPR。
メディアへの露出度が低い大学サッカーにはまだそんな力がないかもしれませんが、特にJリーグの試合を行なっていないスタジアムを保有する市区町村にとっては良い機会となるはずです。
私なりの最終目標は、スタジアムのある市区町村の人々から大学サッカーの試合を歓迎されるような状況を作ること。
そうすることで、各地に大学サッカーの輪を広げることが可能になると考えるからです。
参考モデル
水戸ホーリーホックの「〇〇の市(町)の日」シリーズ
これは、ある該当のホームゲームで、ホームタウンに指定されている〇〇市(町)に在住・在学の人はメイン席に無料招待されるというもの。これによって、サッカーを通じて地域の絆を深めようとしています。
笠松でリーグ戦を行なった時、これを伝えるポスターがパッと目に止まり、ものすごくインスピレーションを受けたのを覚えています。
解決策2:スタジアムまでの経路をデザインする
日本国内において、サッカースタジアムの交通アクセスは良いとは言い切れません。
正直、スタジアムの交通アクセスが悪いと行きたい気持ちも薄れてしまいますよね。
観客に全然フレンドリーじゃない。
それだとリピーターは獲得できない。
でも我々には、スタジアムの位置を変えることも、スタジアム周辺に公共交通機関の駅を作ることもできません。
大学スポーツの枠を超えてしまっています。
しかし、スタジアムまでの経路をうまくデザインすることによって、スタジアムまでの道のりを実際よりも近く感じさせたり、楽しませたりすることは可能です。
その具体的な方法としては、
①バスツアーを組む
②最寄りの駅から部員と一緒に歩いてスタジアムまで歩くツアーを組む
などが例として挙げられます。
①に関しては、筑波大学蹴球部さんが既に実践されていますよね。
すごく良い施策だと思います。さすがの一言に尽きます。
②に関しては、部員と楽しく話をしながらスタジアムまで歩くことで、その時間を楽しませることができるのはもちろん、部員とファンとの距離を縮めることによって、チームに対して更に興味を持ってもらうことが期待できます。
自分はかなり効果的だと考えています!
大学サッカーの課題‐チケット代を1,000円も払えない(特に大学生)
リーグ戦に足を運んでくださる方のうち、大学生が占める割合が極めて低いように感じます。
同じ大学生の試合なのに、なんでこんなにも少ないのだろうって。
昨年末、ラグビーの早明戦を観に行ってきました。
勝った方が優勝を決めることができる大一番ということもあって、秩父宮ラグビー場は超満員でした。
私はゴール裏で試合を観ていたのですが、学生の占める割合がものすごく多かった印象があります。もしかしたら、単純に観客の絶対数が多かったから、学生も多いと感じてしまっただけなのかもしれません。もしかしたら、20000人を超える観客数のうち学生が占める割合は、大学サッカーのリーグ戦における割合と大して変わらないのかもしれません。でも、シンプルにあそこまで観客を集められるのは羨ましいと感じました。
話は大学サッカーに戻ります。
具体的なデータを取っていないのですが、リーグ戦に足を運んでくれる早稲田生は1試合平均5人くらいだと思います。当然、試合会場や対戦カードによって増減はあります。実際、昨季リーグ戦第19節の筑波大学戦は優勝争いを大きく左右する首位攻防戦ということもあり、多くの学生が駆けつけてくれました。
しかしながら、平均約5人という数字。
これは、約50,000人いる早稲田大学の学生のたった0.01%に過ぎません。
各大学、数千~数万人の学生を抱えており、これはJクラブのホームタウンの総人口に匹敵・またはそれより多いところもあります。このアドバンテージをもっと有効に使うことができれば、スタジアムにもっと多くの観客を集めることができるのではないでしょうか。
そのためにまず、大学内における認知度を高めることは各大学の課題であり、使命でもあると感じています 。
今回はあえてそこには触れず、各大学が干渉できない「チケッティング」の部分について書きたいと思います。
解決策:学生専用のチケット価格の導入
なんだ、そんなことか。と思った人もいると思います。
実際、そんなことです。でも、意外と大きな問題です。
現在、大学サッカーリーグ戦では、前売り券を1枚800円、当日券を1枚1,000円で提供しています。
また、お得なシーズンパス?も販売しています。
しかし、この「大学サッカー×1,000円」というところに大学生は多少の壁を感じているようです。
時給に換算してみると1時間。おそらく、1時間の勤務で得た貴重なお金を大学サッカーに投資する価値はない、と考えられているのでしょう。
先述のラグビー早明戦のチケットは一番低い一般自由席で1,800円でしたが、会場は学生で溢れていました。
大学サッカーの試合に1,000円を投資することを渋る大学生を会場に呼び込みたい!となると少し工夫が必要のようです。
この状況下で各チームがよくやっているのは、試合会場に専用ブースを設けて「学生証提示で入場無料にする」というようなもの。特に、集中応援日と呼ばれる日にそれを行う大学が多い印象です。
つまりは、定価より安い値段でチケットを提供しているということ。
でも、そうやってお渡ししているチケット、実は全て、部が事前に学連から買い取ったものなんです。チームで購入したチケットは、800円で渡そうが、タダで渡そうが全てチームの自由。
つまり、現行のルールに則った場合、チケットを安く提供すればするほど、部は赤字を背負うことになるわけです。なので、「学生証提示で入場無料」というものも「先着〇〇名様限定で」という条件がつくことがほとんどです。(それ以上になると部の財政がパンクします)
そこで私が改善案として提唱したいのは、学連が正式に学生専用のチケット価格を設定することで、各大学が負担しているチーム購入分のチケット費用を削減しようというものです。
参考モデル
・法政大学体育会男子バスケットボール部
普段彼らは武蔵小杉で練習しているのですが、練習場から近いとどろきアリーナで公式戦が行われる時は、学連にお願いして法政大学及び附属中高の学生のチケット代を無料にしてもらっているらしいです(リーグ戦で1回くらい)。
非常に面白い施策だと思いました。
事実、これを大学サッカーでも導入したくて学連に入ろうと思ったほどです。
でも、課題もあります。
それは、すべての大学が附属中高を持っているとは限らないということです。公平性を保つという意味では、大学の学生に絞った方がいいかもしれませんね。
しかし、ここでも新たな問題が。
入場無料とする学生の範囲を「すべての大学生」とするのか、「試合を行う該当大学の学生のみ」とするのか。悩ましいです。
以上の2つについては、今後きちんと考える必要がありそうです。
・大学ラグビー
これは特定のチームというわけではなく、大学ラグビー全体の話です。秩父宮ラグビー場で行われる大学ラグビーの試合では、一般席は1,800円かかるのですが、学生席は800円で購入可能です(学生席は毎試合設けられるというわけではありませんが)。一律1,000円の大学サッカーの試合に比べれば、学生から見たらお得感ありますよね。
以上の参考モデルのうち、どちらを取るべきかは決めかねますが、チケットをチームで購入させるのは、部の財政を圧迫しかねませんし、学生専用のチケット価格を導入すれば、お得感を感じて、もっと多くの学生が大学サッカーの試合を観に来てくれると思います。
最後に
これまでお伝えしてきた通り、大学サッカーは課題であふれています。
ただ、一から全てを変えろというつもりはありませんし、その必要もないと思います。
これまで積み上げてきたものに一工夫を加えるだけで、これまで以上に良い運営ができるのではないかと思います。
大学スポーツは課題だらけです。
だからこそ面白いのです。
大学スポーツの課題は大学生自ら解決する。
そこに価値があります。
個人が感じる課題に正解、不正解はありません。
自分を信じて、現場で感じたことをありのままに発信することに意味があります。
皆さんで一緒に大学スポーツをより良いものにしていきましょう。
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