陰口で味わったキャプテンとしての挫折と改善のための取り組み|慶應義塾大学男子ソフトテニス部
この記事でわかること
・慶応大学ソフトテニス部幹部たちによる『組織変革』までの道のり
・勝利への近道への近づき方
~ビジョン・ミッション・バリューの策定方法~
目次 [非表示]
はじめに
私の所属する慶應義塾大学体育会ソフトテニス部は現在関東学生リーグ2部リーグに所属している。
私が入部するよりずっと前から、我が部は「インカレベスト4」「関東学生リーグ1部昇格」という目標を常に掲げていたが、なかなか達成できていない状況であった。
しかし、年々その目標に近づいており、目標達成が現実味をおびてきた、3年生の秋、私はこのチームの主将となった。
「自分がこのチームを引っ張っていく」「過去最高の成績を出してやる」
という強い意気込み、そして自分にはそれを成し遂げることができるという根拠のない自信があった。
主将就任2ヶ月後の関東リーグでは優勝には届かなかったものの、これまでにない手ごたえを感じ、来春への期待を胸に12月に2ヶ月間のシーズンオフを迎えた。
後輩からの陰口
シーズンオフとなったある日、引退した4年生の先輩と食事に行った。
普段と変わらずたわいもない話をした後、先輩から衝撃的な話をされた。
内容は、後輩が僕にはついていけないと言っているというものだった。
さらに、衝撃を受けたのは一番仲良くしていた2年生の"浜田"が中心となり現チーム・私への不満を言っているということだった。
「野口さんのチームは好きになれません。前の代のチームが好きでした。」
ショックだった。
信頼していた後輩の先輩への告げ口、チームメイトの不満の蓄積とそれに気づけなかったこと、焦りや怒りではなく、「悲しい」気持ちになった。
当初は、
「自分は誰よりもチームのことを考えているのにどうしてわかってもらえないんだ」
と、批判をする部員への憤りを感じていた。
しかし、主将就任時に掲げた「全部員がこのチームでよかったと感じる組織作りを行う」という目標に立ち返った時、
このままではいけないという焦りが芽生えてきた。
その後、幹部に思いを打ち明け、本格的に組織創りを行っていこうと決意した。
ただこなすだけのチーム
幹部で話し合い、先輩へのヒアリングを行っていく中で、チームの現状が見えてきた。
(1)前の代と比べて、部活が好きじゃない
(2)意識のレベルが違う
このような現状の背景として
(1)不透明な意思決定
(2)チーム内での存在価値を見出せない
という課題が挙げられた。
これらが原因で、
「野口さんの代は好きになれません」
という思いが浜田を始め、多くの部員に芽生えてしまったのだと感じている。
部員の立場から見ると、なぜそういった方針になったのか、という意思決定のプロセスが見えないまま幹部が決めた取り組みを
「ただこなすだけ」となっていたように感じる。
方針に対してというよりも、意思決定の方法に不満を持つ部員が多かった。
また、我が部は他大学の強豪チームと比べスポーツ推薦制度がなく、部員間の競技レベルには大きな開きがあった。それに伴い全部員が部の目標を自分ごととして捉えることが困難な状況であった。
課題に対する打ち手
シーズンオフ後の先輩との食事をきっかけに様々な課題が見えてきた。
このシーズンオフの時期は組織を変えるために絶好の機会だからこそ、
"この2ヶ月間"を通して、組織改革に打って出た。
1.幹部でのミーティング(12月~1月)
・現状の課題共有、各々の理想のチーム状態をすり合わせ、チームビルディングセミナーへの参加
・目標と目的の明確化。
「目標」は結果の部分、目的は「なぜその結果を目指さなければいけないのか?」
・幹部の考える理想のチーム像を「2年時の石川インカレを超える一体感を味わう」ことにした。
→結果も大事にするが、その先にある「一体感」の醸成を最重要目的とした。
・意思決定のプロセスをできるだけ見える化する、各部員に権限を委譲する
→従来幹部で決めた方針を、部員に発信するという流れだったが、部員からの意見を聞いた上で幹部が最終決定をするという方法に変更した。納得感を芽生えさせるため
当時の私は練習メニューや部の方針、スケジュールなどを全て自分一人で行っていた。そのため、受動的に部活に取り組んでいた部員が多かった。
幹部で話し合い、幹部3人の目指したい方向性が固まった。
その後全部員に現状の考えを伝える場を設けようと考え、⑵の個別面談を行っていった。
2.個別面談(1月18日~2月8日)
(目的)
各選手のモチベーションやチームに対する想いを引き出す。
これだけチームのことを考えているという意識を植え付ける
幹部の意向を伝え、信頼関係を築く→お互いを知る。
具体的には、33人のメンバーに対して1人1.5時間をかけて面談を行った。
主に聞いた内容と、得られた意見
Q1なぜ体育会に入ったのか・・・
→浜田「自分の力でチームを勝たせるということに魅力を感じるから」
→部員A「社会に出ても恥ずかしくない自己成長をするため」
→部員B「高校時代の後悔を払拭するため」
→部員C「真剣勝負を経験できる最後の場所」
Q2個人の目標・・・
→浜田「春リーグ1部昇格にプレーヤーとして全勝で貢献」
→部員D「関東学生選手権で1回戦突破」
→部員E「関東リーグのアップメンバーに入る」
→部員F「高校時代に勝てなかった相手に勝つ事」
Q3幹部・部に対する不満・・・
→浜田「最上級生のまとまりのなさ」、「実力の高い人とコミュニケーションを取りづらい」
→部員G「プロセスを重視していると思うが、結果主義でも良いのでは」
→部員H「スケジュール管理」
→部員I「幹部だけで方針を決めがち」
Q4一番やりがいを感じた瞬間・・・
→浜田「団体戦で自分の勝利に喜んでくれるチームメイトの笑顔を見たとき」
→部員J「多くの団体戦。自分は出れていなくてもチームの輪に入ることで喜びを感じる」
→部員K「高校時代の友人と大学で試合をすること」
→部員L「初めてレギュラーに入れた時、インカレで選手を心から応援できた時」
Q5理想のチーム状態・・・
→浜田「みんなが結果に対して同じ感情を抱ける事」
→部員M「一人一人がチームのための思考を持ち行動すること」
→部員N「互いに切磋琢磨しあい、高め合える環境」
→部員O「出ている選手が気迫を持って接戦をものにする団体戦」
Q6各個人の良いところ・改善点(恥ずかしがらずに真面目に褒める)
→浜田「素直さ」「モチベーションの波」
→部員P「自分が勝つとチームが乗る」「なかなか自分の考えを発信しない」
→部員Q「人前でも堂々と発言をできる」「考え方に偏りがある」
→部員R「負けず嫌い」「頑固な部分がある」
(意識したこと)
・とにかくまずは話を聞くという姿勢
・こちらから意見を提案するというよりも、相手の話を聞いて、じゃあこういうことじゃない?という提案をすることで納得感と責任感を醸成
2.の内容を踏まえて以下のスローガン策定に着手していった。
3.面談内容を幹部に共有し、スローガンの策定(2月9日)
ビジョン 「One for all, All for one」
↑
ミッション 「全日本インカレベスト4」「関東学生リーグ1部昇格」
↑
バリュー 「主体性」「一体感」
策定したビジョンをいきなり全部員に伝えるのではなく、同期、各学年の代表者に伝える場を設けようと考え、⑷のミーティングを行った。
4.最上級生(3年生)と1・2年生の代表者を交えたMTG(2月10日)
・これまでの面談を踏まえた幹部の意向を伝える。
・部員からの意見出し
4.を踏まえ5.に移行
5.全部員へのスローガンの共有・ワークショップ(2月20日)
・策定したスローガンの共有(背景・目的・意図)
・各部員が、面談で話した内容を全部員の前で発信する場を設けた
→シーズンイン前に良い意味で締まりのある雰囲気を醸成させることを目的
取り組みの成果
組織施策による変化は短期間では、定量的な結果には現れない。
この2ヶ月間を通しての感覚的変化は以下のようなものだった。
・後輩からの積極的な意見発信や提案が見られるようになってきた。
→風通しの実現
・練習にも活気があふれ、目標達成に向けて良い意味で「狂気的な」練習になっている(監督からの評価)
・委員会の活性化
→勧誘委員会では独自にパンフレットの作成を行い、全日本高校選抜に資料を配布
→広報委員会では、ツイッター、インスタグラムを活用し、慶應の認知度を高めソフトテニス会をリードすることを念頭に活動
→技術向上委員では役割を細分化し、1年生が練習メニューの考案や、タイムスケジュールを決めるなど裁量度を高めている
・やる気のなかったメンバーの練習への態度、発言にも「チームの一員としての自覚」が芽生えている。
組織というのはそう簡単に変化するものではありません。
そんな中でこの短期間で大きく変わった"浜田"の話をします。
浜田の変化
・勝利への執着心が強くなった→「自分がやってやるんだ」という強い意識が練習の態度や発言から見られるようになった。
・常にモチベーションを高く保ち、誰よりも練習に取り組んでいる。→週に10時間以上のフリー練習を毎週行っている。
・高い目標を口にするようになった→「リーグ全勝」「関東学生リーグ1部昇格」
・チーム全員がこのチームでよかったと思えるチームに貢献する。→技術的に未熟な部員を積極的に誘ってフリー練習を行なっている。
最後に
12月から2月21日のシーズンインに向けて、毎日毎日ただひたすら
「どうすればチームがいい方向に向かっていくのか」を必死に考え続けました。
私や、幹部が打った打ち手が最適だったかどうかは正直まだわかりませんが、
「必死になって部活のことを考えている」という姿を見せ続けたことが浜田を始め部員からの信頼を得ることにつながったのだと感じています。
上記に成果として私が感じている小さな「変化」を記載させていただきましたが、本当の成果は私達がこの部を引退した時に現れるものだと思っています。
今夏の全国大会で目標とする「ベスト4」を達成すること。
そして何より、その成果に対して全部員が心から喜べる・このチームでよかったと思えるチーム作りを残りの期間必死に取り組んでいきたいと思っています。
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