関学サッカー部がオンリーワンの強い組織を作るためにチームの目的をなくした理由|関西学院大学サッカー部
この記事でわかること
・強い組織を作るため取り組むべきこと・関西学院大学サッカー部の事例とそこに至るまでの過程
目次 [非表示]
はじめに
21時15分、ミーティングを始める。
今日の議題は“なぜ日本一になるのか”だ。
ひとりが口火を切る。
「そもそも、日本一である必要はあるのか?」
それに対して様々な意見が飛び交う。
「関西一でダメな理由は?」
「天皇杯は制覇しなくていいのか?」
「アイリーグ(*1)は目標に置くべきか?」
ミーティング開始から1時間が経ち、グループワークに移る。
そこで出た案を発表し、さらに言葉に磨きをかけていく。もはや沈黙はない。
練習後で疲れた中でも、思考をフル回転させる。議論は収束に向かう。
もう終わろうかという時に、悪魔の代弁者(*2)が現れる。
また振り出しだ。
でも考え、主張し、傾聴する。
23時になる頃、一本締めでミーティングを終える。明日もこの時間集まり、話し合う。
関学サッカー部の“良くある光景”である。
これが日常で、これが文化だ。
(*1 各大学Bチーム以下のカテゴリーが参加する地域リーグ。地域代表による全国大会も行われる。)
(*2 イギリスの政治哲学者ミルの著書「自由論」での指摘によるもので、多数派に対してあえて批判や反論をする人を示す。意識的に反対意見を言うことで、議論の精度を上げる。)
組織力を高めるなら、ビジョンを定める
冒頭のミーティングは各学年で自然と行われる。なぜなら、ミーティングをして、価値観を共有し、ビジョンを定めることの重要性がわかっているからだ。
組織力というテーマであると聞き、真っ先にビジョンのことを書こうと思った。
もちろん組織力を高めるには他の要素もたくさんある。でもまずビジョンの話をするのは、ビジョンがその集団をグループからチームに昇華させるからだ。
今回は関学サッカー部のビジョンや、それを決めるまでの過程を過去との違いも交えながら紹介したい。
関学サッカー部が目的をなくした
関学サッカー部にとって目的は重要な意味を持っている。しかし、ビジョンを定める上で強くなるには一度目的を無くすべきだと考えた。
これまでのビジョン
今年はこれまでの関学サッカー部のビジョン設定とかなり変えている。
例年は目的、目標、価値観、スローガンで成り立っていた。
大きな特徴は、やはり「目的」だ。
2015/2016年
「大学サッカーの正当性を証明する」
2017年
「一体感の可能性を示し、観る人すべてに感動を与える」
2018年
「共に闘う人の原動力であり続ける」
目的は関学サッカー部に当たり前に存在していた。そしてそれが“関学らしさ”でもあると思う。
しかし、今年はビジョンに「目的」という表記はない。
目的のあるべき姿
目的はチームの軸となる。
ただ日本一になるだけでは、どの大学が優勝したって同じだ。
目的があるからこそ自分たちが優勝することの価値が生まれる。
そして、関学サッカー部でもこれまで目的を掲げてきたのは、関学サッカー部の価値を見出すためであり、組織の目指す場所を明確にしてくれるからだ。
それでも2019年度では目的を掲げなかったのには、いくつか理由がある。
目的と表記していない理由
①目的が逃げ道になっていた
目標を達成しなくても、目的が実現すればいいという空気があった。
日本一になってないのに、それを美化し肯定したくない。
②目的の定義が曖昧
目標は目的を達成するための手段という考えや、目的はなぜ目標を達成したいか、など目的という言葉の共通認識ができていなかった。
③個人に目的感がない
なんとなく継承されていたから、チームの目的はあった。
しかし、下級生は4年生がつくった目的にコミットできない状況になっていた。
それは自分たちがビジョン設定に関わっていないからではなく、個人の目的感がないためチームの目的と循環せず、ジブンゴトにならないからだ。
この3つだけが無くした理由なら、目的の定義を明確にし、目標はマストになる目的にして、個人の目的感を抱かせる取り組みをする選択肢もある。
それでも目的の表記をなくしたのには、もうひとつ理由があるのだ。
④今年の関学サッカー部ではなく、これからも続いていく関学サッカー部が、過去や未来の中のいま、どうするべきか考えた
今年だけのことを考えたら目的と表記していた。
でも、この組織は何となくで目的を捉えてしまっている。
一度なくすことで、保険をかけずに目標へ向かう道の険しさ、目的の目的はなんなのか、それを再考する年にしたかった。
まとめると、まず日本一になることに全力を注ぎ、個人の中に目的感を抱き、組織の目的感と循環させる。
そのためには、一度目的をなくして組織として目的の価値を再考し、前進する1年間が必要だ、という考えだ。
組織のビジョンについて、再考する
そもそも、ビジョンとは何なのか。 今年のビジョンに触れる前に、前提を合わせる。
ビジョンとは何か(what)
ビジョンの語源はギリシャ語のaion(イーオン)で、これは“人の一生”を意味する。
人が生きるのに必要なものなのだ。
ビジョンは自分らしさや奥底に眠る目的感を引き出す。
自分の軸となり、人生を歩むコンパスがビジョンだ。
なぜビジョンが必要なのか(why)
まず考えるのは、方法論ではない。
「なんでそうなのか」だ。
安易に方法だけを掴みに行っても、中身のない薄っぺらな話になる。
では、なぜビジョンがあるのか?
それはチームの軸になるからだ。
試合に負けた時、うまくいかない時に、とるべき方法の選択の基準になる。
また、他人どうしの母集団は沢山の壁や軋轢を内包するが、組織のビジョンを共有することで繋がりが生まれ、団結することができる。
もちろん個人のビジョンも不可欠だ。
組織のビジョンだけではやらされてる感が拭えない。
自分自身のビジョンと組織のビジョンが循環し、はじめて組織のビジョンが機能する。
ただ、それだけではない。
人生を歩むうえでも自分のビジョンは不可欠だ。
もしビジョンが無ければ、日々を惰性で過ごし、目の前の人間関係に悩まされ、承認欲求に囚われるような人生になる。
あなたが少しでも生き甲斐を感じたいと思い、少しでも現状を変えたいと願うなら、ビジョンを必要としている。
どうやってビジョンをみつけるのか(how)
組織におけるビジョンも、個人のビジョンも、みつけるまでに辿るプロセスは大きく変わらない。
要は、「自分が、自分たちが本当にやりたいことはなにか。本当に成し遂げたいことはなにか。」を自問自答し続けるのだ。
辿るべきプロセスは次で記述する。
組織のビジョンを定めるまでのプロセス
今年のビジョンを定めるまでにどのようなプロセスを経たのか。
①自分を知る
まずは自分を知ることだ。
どんな自分が好きか、誰にどんな貢献をしたいか、それはなぜなのか。
そして、自分の目的感を抱き、個人のビジョンを語れるようになるまで考える必要がある。
留意しておくが、考えることは悩むことではない。
(考える行為にはゴールがあるが、悩む行為にはゴールがない)
②相手を知る
自分がわかったら、次は相手を知るプロセスに進む。
相手を知るとは、その人のビジョンを知ることだ。
そのために、学年ミーティングでは智慧の車座(*4)などを行なった。
(*4 智慧の車座は、少数のグループで相談者が悩みを打ち明け、周りが解決策を提案するミーティングの手法。司会者はリーダーシップを養い、相談者と提案者は課題解決能力を養う。この過程の中で互いの価値観が見えてくる)
③組織の価値観を共有する
ここまで進むと、コミュニティの価値観がみえてくる。
その価値観が話し合いの軸となる。
④組織の目的感を合わせる
なぜ目標を達成するか、なぜこの組織にいるか、なぜ生きるのか。
目的感が共有された組織は強い。
困難にぶつかっても進むべき道がわかり、迷っても判断する軸があるからだ。
2019年度ビジョン
去年までの関学サッカー部では、目的・目標・価値観・スローガンからビジョンが成り立っていた。
今年は目的がないが、どうビジョンを設定したのか。
目標:日本一(女子はインカレ出場)
関学サッカー部は4冠以降、4年間で関西2位、全国ベスト8が最高位だ。
ならば、関西一が最も現実的な目標かもしれない。
それに対して、日本一を目指せるなら、それを目標にすべきという意見が出た。
その論理なら、天皇杯優勝を目標にするべきだ。
でもそうしないのはなぜか?
そこで、改めて目標の価値を考えた。
目標の現在価値は日々の強度を定め、未来価値は過程への意味づけをすることだという結論に至った。
つまり、関西一だと基準が低下して日々の強度が下がり、天皇杯だと基準が高すぎて強度を定めるイメージさえ湧かない。
また、関西一を目標において日本一になれば「儲けもん」という感覚になるため、日本一に設定して日本一になった方が過程への意味づけが深くなると考える。
目的をなくした最大の理由は逃げ道なしで日本一に挑むためだ。
「とにかく今年、日本一になる」それが目標だ。
なぜ日本一になるのか:関学サッカー部がオンリーワンの存在であるため
ここでいうオンリーワンとは、ナンバーワンを包括している。
人間的成長を追い求め、それこそがサッカーの日本一になることに不可欠なことだと本気で思っている。
目的を置かない理由のひとつに、目的の定義が曖昧なことを指摘した。
そして、今年の4年生は目的は「なぜ目標を達成するのか」だと考えている。
定義を明確にするためにこのような書き方をしていて、後輩たちとこの部分を掘り下げてより洗練された組織の目的感を探っていく。
どうやって日本一になるか:日本一こだわる組織になる、日本一人間的成長を追い求める組織になる
なぜ?という抽象的な表現だけでは分かりづらくなるから、解決策にすぐ接続できるようにした。
日本一、日本一になることにこだわる。結果にこだわる。ワンプレーにこだわる。あいさつにこだわる。
役職活動、ミーティング、社会との関わりを通して日本一人間的成長を求める。
なぜ貢献するのか:同じ感情を同じ熱量で抱きたいから
組織への貢献という言葉は関学サッカー部で重要な意味をもっている。
Cチームにいても、日本一に貢献できる。
それは誰よりも努力することかもしれないし、役職活動かもしれない。
でも、貢献は強制されるものではない。
ではなぜ貢献するのか。
それは日本一の喜びを全員で同じ熱量で喜びたいから。
自分がチームに貢献したと思えなければ喜べないから貢献する。
スローガン:共創×競争
このビジョンを一言にまとめ、普段から飛び交うような言葉にした。
誰一人欠けることなく、全員でこのチームをつくる、共創。
馴れ合いではなく健全なライバル関係で切磋琢磨する、競争。
どちらかが0なら全てが0になる意味を込めて、掛けている。
このスローガンのもと、日本一になる。
最後に
もし自分にビジョンがないなら探しに行こう。
惰性で生きてもつまらない。
明確な個人のビジョンをもち、目的感の望む方向へ進もう。
もし自分の所属する組織にビジョンがないのなら、考えてほしい。
あるなら、再考してほしい。
何となく決めてはいないだろうか。
本当にその目的は自分の目的感とリンクしているだろうか。
創業者でなければ組織のビジョンを考える機会なんてない。
たいていの社会人が経験できないことだ。
社会に出たら組織のためにという想いは薄れ、自発的に貢献しようという動機づけは生まれにくい。
昇進して、いいサラリーをもらうことが目標になる。
体育会に生きる我々は、金銭的なインセンティブがなくても、目的感でつながる。
強い組織とは、同じビジョンのもとに、その実現のため全員が貢献し、幸福であり続けられる組織だ。
それを体現できるのが体育会の価値だ。
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