「食でスポーツをささえる」~城西大学・栄養サークルAnswerの体育会サポート~
初めまして。城西大学・栄養サークルAnswerで活動している市川ゆみです。私の所属しているAnswerはアスリートを栄養でサポートするためのサークルで、現在、城西大学男子駅伝部の栄養サポートを行っています。今回は、男子駅伝部の栄養サポートの内容や、そこに至るまでの道のりなどをご紹介させて頂きます。少しでもスポーツ栄養に興味を持っていただければ幸いです。
「食でスポーツをささえる」Answerの活動
Answerの活動は「食でスポーツをささえる」ということをコンセプトとして2018年に発足しました。名前の由来は、目的の頭文字をとって名付けられました。
A:アスリート(athlete)
N:栄養(nutrition)
S:サポート(support)
W:健康(wellness)
E:教育・学び(education)
R:調査・研究(research)
同じ大学生の「アスリート」を「栄養・食」のチカラで、シーズンを通じてケガなく、「健康に」活躍できるよう「サポート」することを目的としています。学生アスリートにとってプラスになることだけを目的とするのではなく、このサポート活動を通じて、サークルメンバーが学科のカリキュラムで学んだことを実践し、さらに疑問に思ったことを「調べ」、「学修」することで、自らをステップアップできる場としたいと考えています。つまり、学生アスリートもサークルメンバーもどちらも有意義な活動になることを目指しています。
2018年の発足当初、Answerの活動は具体的な主軸がなく、まだ日の浅い組織だったため活動自体が不安定でした。なかなか継続できるテーマがない中で、施設見学やアスリートの方の講演会などは行っていましたが、どれも単発で終わってしまうという状況でした。さらに2020年度はコロナウイルスの影響により授業もオンラインになり、課外活動が厳しい中でAnswerの活動は空白の1年になってしまったと思います。
そのような状況の中で私たちの代に引き継がれました。最高学年となり、サークルを作り上げる立場になったということや、Answerの活動の現状を打破したいという思いから、何かサークルとしてできないかを模索していました。
個人としても、男子駅伝部のマネージャーをしており、日ごろから駅伝部の栄養面での問題を目の当たりにしてきましたが、その状況にいても、知識や勇気が足りず何も言えない自分にもどかしさを感じていました。
そこで、状況を先生方に相談したところ、一人でやるのは厳しいのでAnswerの活動として取り組むのはどうかと提案して頂き、サークルとして駅伝部の栄養サポートをすることになりました。
具体的には、男子駅伝部の食事についての意識や現状把握、課題発見を目的とした交流会や栄養に関する講座を開きました。交流会の際に、選手たちの食事に対する意識や調理能力、選手たちが暮らす周辺環境などをヒアリングし、その上で講座のテーマを設定しました。今回は、夏バテなどをせず夏季の練習を乗り越えるということをテーマとし、内臓疲労やクーラーなどの温度管理による体調への影響や、身近に実践できる栄養バランスの整った食事の提案などの夏バテ対策講座を行いました。ヒアリングをしたこともあり、選手たちに寄り添った内容になったと思います。
また、このサポートが駅伝部の選手だけでなく、サークルメンバーにとっても成長の場になるように設計していきたいと考えています。特に、人に自分の言葉で伝える機会を多く作れればと思っています。実際に、大学の講義では、人前で何かを発表するという機会は少ないですし、その発表をするのもよく知る同じ学科の学生の前が多いです。もともと準備した内容を音読するだけでなく、話を聞く側にも気を配り言い回しを変えたり、補足説明などを加えたりするといった実践的な経験は将来に生かされると思います。
私自身がまだこのことができるわけではありません。一緒に活動していく中でお互いに成長していけたらと考えています。
アスリートの食の大切さ
男子駅伝部の選手を支える立場として、選手たちが競技を取り組む上で食に対して興味を持ってほしい、適切な食選択をする力を身に付けてほしいという想いがあります。なぜならアスリートにとって食事は切っても切り離せない重要なものだからです。
実際、私も食事の大切さを実感した経験があります。私は、中学高校の6年間、陸上の長距離をやっており、高校2年の時に貧血に悩まされた時期がありました。そこで食生活を見直したところ再発することなく競技に取り組むことができ、規則正しい食習慣がパフォーマンスに良い影響を与えるということを体感しました。
そのような経験が管理栄養士を目指そうと思うきっかけにもなりましたし、部活動でマネージャーとしてだけでなく、食事の面からも頑張る選手たちを支えたいと感じる原点になっています。
実際の部活動では、選手たちの練習が終わってから食事の時間までの時間が空いてしまうことや、きつい練習をした後に内臓疲労でその後の食事が出来なくなってしまうなど、栄養面の課題の多さを実感しました。そして、その背景には選手たちの栄養や食事に対する意識の問題があるのかもしれないと感じる機会も増えました。
だからこそ、Answerとしての取り組みを通して、アスリートにとって食事はとても重要なものだと、理解し共感してもらえるように伝えていきたいと思っています。
栄養サポートをするにあたって困難
交流会や講義をするにあたって、いくつか難しさを感じたことがあります。
まず、いかに選手に興味を持ってもらうかという点に苦労しました。
私たちは専門的な知識を学んでいますが、そうではない選手たちはどのような説明の仕方なら理解してもらえるか、興味を持ってもらえるかを考え、伝え方を工夫する必要がありました。そこで、日常生活の中で実践しやすい具体的な例を出すことやちょっとした豆知識などを織り交ぜることで、興味を持ってもらえるきっかけを作り、行動に移してもらえるように工夫しました。また高度な専門用語や長いカタカナなど聞くだけで難しい、と思ってしまうような言葉は使わず、分かりやすく砕けた説明になるように心がけました。
次に、運営面での難しさです。
これまで大学では、決まった時間に指定された場所で授業を受けるというように、完全に受け身の環境で生活してきました。ただ、今回は、私はAnswerにも男子駅伝部にも所属する唯一の学生であり、この企画の発案者ということで、主体的に動くことが求められました。実際に、双方の組織への連絡をはじめ、男子駅伝部の監督と医療栄養学科の先生に内容の相談や日程調整、場所の確保などの事務的な仲介の他、男子駅伝部の選手たちにアンケートを取り共有、内容の打ち合わせなど、企画運営全般に携わりました。
その中でも、人を動かすことがとても大変でした。
今回の取り組みは何もない0の状態から1を創り出す必要があり、そのために、サークルのメンバー、駅伝部の選手の両方の協力が不可欠でした。強制ではないサークルとしての活動は上からの指示がない分、サークルメンバーには、私が方向性を提示して引っ張っていかなければなりません。その一方で、Answerとしての活動が男子駅伝部の選手たちに合っているのかなども考慮する必要があり、双方の学生の状況や気持ちを汲み取ることがとても難しいと思いました。モチベーションが人ぞれぞれ違う中で、全体を同じ力で引っ張っても弱すぎたり強すぎたりとうまくいきません。ある程度学生の状況を理解した上でレベルに分け、そこに合わせて接していくことが重要だと感じました。
組織を運営するということの大変さや難しさを学ぶことができたと同時に、単純に先生など教育する側の人々はすごいなと感じました。
ポジティブな反響
交流会では半強制的に選手には参加してもらった部分はありましたが、意外と話が盛り上がっていたことに安心しました。
部活動にサークルが関与することに抵抗感を抱かれる心配もしていましたが、選手たちから、自分たちのために考えてやってくれていて感謝していると言ってもらえたり、快く受け入れて頂けたと思います。また、選手の中には初回の交流会には参加できなかったが次は参加したい、と言ってくれた選手もいました。
サークルメンバーにとっては競技をやっている人の実態は新鮮なものだったと思いますし、のちの話で大学生活をかけて競技に取り組む人のために何かしたいという気持ちを持った、という人がいたことを知り、普段の大学生活では関わる機会のない人たちの架け橋になれたように感じました。
夏バテ対策講座では私自身は発表側には携われなかったのですが、実際に発表したサークルメンバーたちから緊張したけど楽しかった、また発表したいという話を聞くことができで嬉しかったです。選手たちへの事後アンケートでも分かりやすかった、実践してみたい、という声の他に自分たちが知りたいこと、気になることを書いてくれて、今後も活動を継続して行っていきたいとより一層感じました。
栄養サポートを通して実現したい未来
まず、選手たちには、パフォーマンスの向上やコンディションの調整をする上で食事や栄養は重要な要因の一つであることを理解してもらい、よりよい競技生活が送れるようになってほしいというのが大きくあります。Answerが食事や栄養に関する情報提供を行い、その過程で欠食や残食が減少していく、練習後に補食を摂る人が増える、適切な食選択ができるようになる、というのが目に見えて分かるようになればと思います。
そして、ゆくゆくは、身近にAnswerという組織があることを利用し、食事などで困っていることや気になることを気軽に聞ける環境、一人一人の悩みにも対応できる環境を作りたいと考えています。
活動が不安定なAnswerとしても、男子駅伝部の栄養サポートを主軸に組織運営をしていきたいと考えています。メンバーたちが、栄養サポートの中でテーマを決め、自らの言葉で選手たちに伝える機会を定期的に設けていく予定です。そのことによって選手の知識の定着やサークルメンバーの発表能力の向上に役立てばいいなと思っています。
またSNSを通じてスポーツを取り組む全ての人々に共通する内容の発信や、レシピの考案など新たな取り組みも始めようと準備しています。外部に発信することで外から新しい意見を得ることがあればそこでまた活動の幅が広がっていくのではと考えています。
私個人としては、選手たちがAnswerとの交流で得た情報のほかに、さらに知りたいことや分からなかったことがあれば、それを伝える機会を設け、継続して交流をしていくことが重要だと考えます。そうすることで、栄養学を学ぶ学生もアウトプットの場を何度も経験でき、双方にいい影響をもたらしてくれると思うからです。なので、まずは双方の繋がりを強化していきたいと考えています。
ただ、正直、時間がないというのが現実です。私は現在4年で、今後Answerは次の代に引き継がれていきます。そうなると、医療栄養学科と男子駅伝部をつなぐ仲介役がいなくなってしまいます。このままだと、私が卒業することによって男子駅伝部との取り組みが終わってしまうこともあるかもしれません。なので、サークルメンバーに対しても、男子駅伝部に対しても何か綱は残せるように残りの時間を費やしていきたいと考えています。そして、サークルメンバーがAnswerの活動の中で男子駅伝部への栄養サポートを行ったことを誇りに思えるような環境を最後まで作っていきたいと思います。
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