• TOP
  • 組織力強化
  • 変革の1年を振り返る 筑波大学女子サッカー部|後編

変革の1年を振り返る 筑波大学女子サッカー部|後編

TOPICS
2019年12月20日

SHARE

前編では、筑波大学女子サッカー部の“オフザピッチ”での取組をまとめたが、この後編では、ヘッドコーチ・選手・OGそれぞれの視点からみた“オンザピッチ”での改革への取組について記載していく。

まだの方は、まずはぜひ前編を読んでいただきたい。

オンザピッチ

“インカレ出場”

それが今シーズン掲げた最大のミッション、目標である。


なでしこリーガーから初心者まで、幅広い選手層で構成される筑波大学女子サッカー部にとって、この目標を達成することは決して容易でない。

背番号10を背負う2年の千葉玲海菜のように、特別指定選手としてなでしこリーグにも出場している選手がいる一方、大学からサッカーを始めた選手もいる。

#10 千葉 玲海菜 選手

高校で全くサッカーをしていなかった選手が3割近くを占めるチームは、関カレの1部、2部を合わせても筑波大学以外にない。さらに関東は、チーム数も多く、年々勢いを増す強豪揃いの激戦区である。


事実、筑波大学女子サッカー部は、5年前のインカレ出場を最後に2部降格と1部昇格を繰り返し、インカレ出場からは遠のいていた。

競技力向上のための改革始動

しかし昨シーズン、チームに“変化”が訪れた。ヘッドコーチ、平嶋裕輔の就任である。

それによって筑波大学女子サッカー部が再び躍進したことは、結果を見れば明らかである。


平嶋ヘッドコーチは、どのようにチームを改革し、強化していったのか。


就任当初の筑波大学女子サッカー部の印象について、平嶋ヘッドコーチはこう話す。


平嶋 みんながサッカーを一生懸命に頑張っている。でも、大学からサッカーを始めた子、大学までサッカーをやりたくても出来なかった子たちがサッカーを知らなくて、頑張り方がわからないのかなという印象


それを受けて、どのようなチームを目指し、どのように改革し始めたのか。


平嶋 当時の4年生が(相手チームの)分析をしてみたいと言ってくれて、有志の5・6人や、たまに聞きに来てくれる子に、サッカーの観方、分析のやり方を伝えました。

最初は(ヘッドコーチでなくコーチだったので)、分析の部分のみを引き受けていたので、それをすぐに試合に活かせたわけではなかったけれど、ヘッドコーチが自分に変わって、筑波の持つ真面目さ、個々の身体能力の高さや頭の良さという特徴を活かしたサッカーをしたい、しっかり相手を観て、自分たちの技術を補うことで、技術の高い相手に勝っていけるサッカーができたらいいなと思った。


平嶋ヘッドコーチをはじめ、他のスタッフも筑波の印象については、口をそろえて「真面目」と答えた。どうやら、筑波大学女子サッカー部を表象する言葉は、良くも悪くも“真面目”という言葉に尽きるようだ。


平嶋ヘッドコーチは、その特徴を活かし、筑波の持つ能力を最大限に発揮できるサッカーを目指したのである。


昨シーズン6月、平嶋ヘッドコーチは、分析を手始めとして、競技力向上のための改革を始動させた。

相手を分析し、それによってチームの戦術を決定、それを共通認識として組織的に戦う。今までチームの中で曖昧だった戦い方が明確になり、勝利への道筋が開けた。それは、筑波の個々の戦術理解力と戦術を忠実に再現できる真面目さがあったからこそである。


結果はみるみる表れ、昨シーズンは目標であった“関カレ1部昇格”を果たした。

昨年、4年生としてチームを関カレ2部優勝に導いた、現在浦和レッズレディース所属の水谷有希選手はこう語る。


水谷 やっぱり守備を整理し、戦術を選手に落とし込んでいる平嶋さんの力は本当に大きい。

全体的にみて個々の技術がそれほど高くない筑波にとって、相手によって戦術を変える今の戦い方は1番合っている。そしてチームとして決めた戦術を、忠実に実践しようとする選手たちの真面目さがそこに生きているからこそ、今まで当然のように負けていた強豪相手にも、いい勝負ができたのだと思う。


ここまではまだまだほんの序の口。

実は、改革のための具体的な取り組みを本格的に始めたのは今シーズンからだった。その理由については、


平嶋 昨年はプレシーズンから見ているわけではなく、かつ、関東リーグから降格しそうだったので残留させなければいけないし、大学リーグ(関カレ)は昇格させなければいけないという思いがあった。

だから、具体的な取り組みよりも結果をどう出そうかと考えて、それまでやってきた分析と、サッカーの基本を選手に伝えるということにフォーカスして指導しました。今年は、1年間プレシーズンから指導できたのと、選手だけでもある程度できるようにしたくて、選手が自分たちで分析等してチームを作っていけるような取り組みを少しずつやっていきたいなと思いました。


ここからは、具体的な取り組みについて触れていく。

トレーニング方法の改革

戦術的ピリオダイゼーション

トレーニング方法を改革し、サッカーの競技力向上を果たすために平嶋ヘッドコーチが導入した考え方である。

戦術的ピリオダイゼーションの基本的な考え方は、「サッカーはサッカーでしか上手くならない」である。


平嶋ヘッドコーチは、女子サッカー部で指導を行なう以前、北野誠監督(現 FC岐阜監督)・上村健一ヘッドコーチ(現 カマタマーレ讃岐監督)の下でカマタマーレ讃岐GKコーチ、小井土正亮監督の下で筑波大学蹴球部コーチを務めていた。

3人の指導者は、共通して、“サッカーはサッカーでしか上手くならない”という指導理念を持っており、特に小井土監督はサッカーのピリオダイゼーションを理論的に学び、筑波大学蹴球部で実践していた。


そのため平嶋ヘッドコーチは、尊敬する3人の指導者から強く影響を受けたと語った。

筑波大学女子サッカー部では、基本的に週の中間にFCTと称する“あげ日”があり、そこでサッカーによる強度・負荷の高いフィジカルトレーニングを行なっている。

しかし、単純な素走りと違って“サッカーであげる”ことはなかなか難しい。選手やポジションによっては、走行距離・スプリント量などが異なるため、同じトレーニングを行なっても、同じ負荷を与えられない場合があるからだ。

データの活用

そこで平嶋ヘッドコーチが取り入れたのが、コンディション評価とGPSである。

コンディション評価は、選手自身が練習前に疲労度、練習後に各トレーニングメニューの負荷を10段階で評価し、データ化したものである。

GPSは、Catapult社のPlayertekを使用し、走行距離やスプリント回数等をデータとして算出している。

平嶋ヘッドコーチは、それらのデータを活用し、意図した負荷をトレーニングの中で与えられたかどうかを確認し、自らのトレーニングを振り返っている。


平嶋ヘッドコーチはデータを活用する目的について、


平嶋 主な目的は、狙いとした負荷をトレーニングで与えられたかを確認すること。試合中の負荷を100%とした時に、今日のトレーニングの負荷は何%ぐらいなのかというのを客観的に知りたい。


もう1つは、選手自身の振り返りにも使えるんじゃないかと思って。

でもサッカーのパフォーマンスを評価するときはGPSのデータだけ見てもだめだし、映像だけ見てもだめで、両方見なければいけない。

映像で試合の流れ、GPSで走行距離やスプリント距離、かつコンディションで疲労具合を確認する、そうして映像とデータをリンクさせることで試合を振り返り、サッカーのパフォーマンスを評価する。いつかは、選手ももっとトレーニングの振り返りとかで活用してくれれば良いのではないかと考えています。

ファンクショナルトレーニング

平嶋ヘッドコーチが今シーズンから導入したトレーニングの新要素はまだある。


“ファンクショナルトレーニング”、いわゆるボールを伴わない、身体能力の向上を目的としたトレーニングである。

ファンクショナルトレーニングを担当しているのは、陸上競技の跳躍種目を専門とする、吉田拓矢トレーニングコーチ。

平嶋ヘッドコーチの誘いにより、今シーズンから女子サッカー部に携わることとなった。陸上跳躍からのアプローチで、“跳ねる”というバネの力の使い方を走りや切り返しなど、サッカーへ応用しようという考え方がトレーニングのベースにある。陸上のトレーニングがサッカーにどう活きるのか、吉田トレーニングコーチはこのように考える。


吉田 伸ばしたい要素としては、“切り返す、速く走る、速く加速する、うまく身体を使う”。

ヘディングも、タイミングよく飛ぶためには上体の振り方や腕の使い方が大事であり、そういう面で生かせるのではないかと考えています。陸上とサッカーで必要とされる要素は、潜在的に共通している部分があるので、全く繋がらないわけではないと思います。


実際に、身体能力の向上という点では、スプリントや切り返し、ジャンプなどの測定で今シーズン当初からかなり記録が伸びている人がほとんどである。


ここにも、平嶋ヘッドコーチの改革の成果が表れているのではないだろか。 

改革による“変化”

こうした平嶋ヘッドコーチの改革は、昨シーズンまでのチームを知るOGスタッフの目には、どのように映っているのか。

昨シーズンから筑波大学女子サッカー部にスタッフとして携わる福田有紗トレーナーはこう話す。


福田 トレーニングメニューの内容と負荷がちゃんと考えられている。

戦術があった上で、今週はこういう練習をしよう、何曜日にこれをやってこの日に負荷の高いメニューをしよう、負荷が高いままだと怪我をするから、疲労度(コンディション)を見ながら調整しようということを平嶋さんはやっている。

結果、小さな怪我はあるが大きな怪我が減ったのは事実。


また、同じく女子サッカー部OGで、今シーズンからコーチを務める白井蒼コーチは以下のように語った。


白井 科学的な知見に基づいた練習の計画が立てられていることや、平嶋さんがサッカーの原理をしっかり教えてくれるから、選手間でのコーチングの声がたくさんあることが、これまでと違うなと感じた。

でも、一番感じたのは、サッカー経験の少ない子の伸び幅が大きいこと平嶋さんのトレーニングは、技術的なところだけに焦点を当てるのではなく、ボールを持っていないときの動きにフォーカスした指導があるから、ボールを持っていない部分でもたくさん貢献できて試合に出るチャンスがあるし、ボールを持っていない部分の動きが改善されることで、ボールを持っている時のパフォーマンスも上がっていると思う。

全員サッカー

筑波大学女子サッカー部ならではのレギュラーとサブのレベル差は、指導においても困難を伴うはずだが、平嶋ヘッドコーチの指針はあくまで選手主体。選手が立てた目標の達成からはぶれることはない。


平嶋 部員27人が、(インカレ出場等の)目標を達成するために一生懸命やる、下(のレベル)じゃなくて上(のレベル)に合わせる、と言っているので、自分はそれをどうやって達成させてあげるかを考えて指導している。だから、今であれば筑波の基準を大学リーグ(関カレ)1部の基準に合わせてトレーニングするようにしています。

けれども、サブの選手を放っているつもりはないし、みんなを押し上げたいと思っています。


27人全員の目標達成のために誰一人として見捨てないし、誰にでもチャンスを与える

そのために、自分の時間を犠牲にして、悩み、考え抜く。

筑波大学女子サッカー部に捧げる時間は並大抵ではない。


どうしてそこまでできるのか。


平嶋 女サカにきて思ったのは、みんなとても頑張ってるし、目標もはっきりしてる。なによりサッカーを真剣にやってる。だから自分も本気でやらなければいけないなって思ってます。


中心選手として、チームを引っ張る千葉は、こう語る。


千葉 レベルの差があると、どうしても全体の練習の質は落ちてしまうかもしれません。でも、その中でいかに自分が、正確で質の高い動きにこだわれるかを意識しています。初心者の選手をみて、前よりこんなプレーができるようになっているなって気づいたときに、自分はどうだろうと考えさせられることもあります。どの選手も常に一生懸命です。そういった面では、私にとっても、いい刺激だととらえています。


初心者の選手たちも経験と技術の不足分を、頭を使った練習で少しでも追いつき、長所を生かしたプレーでチームに貢献したいと、必死にサッカーを学び、技術を身に着けようと努力している。それに対して、経験者もアドバイスや励ましの言葉を惜しまず、その場で伝えるのが筑波大学では日常だ。


選手もスタッフも全員がサッカーを真剣にやる。だからこそ、競技力が向上し、勝てるチームへ、オンザピッチにおいても魅力のある、今の筑波大学女子サッカー部へと“変化”しているのではないだろうか。

選手主体の分析

平嶋ヘッドコーチによって行われた競技力向上のための改革。


それによって様々な“変化”がもたらされ、それが結果に結びついてきた。

その“変化”の中で大きいのは、サッカーの競技力につながるオンザピッチにおいて、今まで以上に選手主体で取り組むことができるようになってきたことではないだろうか。


それを1番体現しているのは“分析班”である。

分析班は有志で結成され、1試合に対し2〜3人のグループで、対戦相手の試合映像から特徴を分析し、全体のミーティングで発表する。昨シーズンから分析班として活動してきた、3年の小平真帆は、分析をするようになってからの変化をこう語る。


小平 自分たちで分析をすることで、戦術の理解が深まりました。スタッフさんから指示は受けますが、最終的に試合で実践するのは選手です。分析をすることで、相手の戦い方や特徴を知った上で試合に臨むことができます。また、自分のポジション以外のことも含めてサッカーの知識が増え、選手間でもこういう状況だからこうしよう、という声掛けやコミュニケーションが活発になったと思います。


分析班に続き、新たにセットプレー班も生まれた。その中心となって取り組んでいるのは、10番を背負う千葉だ。


千葉 なかなか得点に結びつかず、成果があまり出ていないという点では難しいですが、これからクオリティを上げていきたいと思っています。試合中でも、状況に合わせてみんなとアイデアを出し合えるようになることを目指しています。


これらの活動を通して、選手たちがサッカーへかける時間、話し合いをする上での質は自然と向上してきている。

真面目に取り組み、自分たちで問題を解決していく力を持ちながら、今までサッカーを知らなかった選手たち。


サッカーを学ぶ環境ができたことが、彼女らにサッカーの奥深い楽しみ方を教えたのだ。

最後に

今シーズン、筑波大学女子サッカー部は、関カレ1部の強豪チーム相手に引けを取らない実力をつけ、5年ぶりに“インカレ出場”という快挙を成し遂げた。競技力向上は目に見える結果となってきている。


その理由を探るため、ここまでオフザピッチ、オンザピッチの両面から筑波大学女子サッカー部に踏み込んでいった。


創部から今まで、幅広いレベル層の選手を受け入れ、女子サッカーの普及活動や大会運営、組織運営を続けていく中で、“魅力あるチーム”“輝ける人”を目指し続けてきた女子サッカー部。オフザピッチの活動を通しては、選手の“主体性”が育まれてきた。


その筑波が伝統的に強みとしてきた“主体性”や“ひたむきな真面目さ”は、新たに就任した平嶋ヘッドコーチによって、オンザピッチにまで広げられ、『選手主体の考えるサッカー』 『個々の特徴を最大限に活かし、相手によって戦術を変える柔軟なサッカー』 『チームモデルの徹底された組織的なサッカー』の実現につながった。


真面目さを活かし、オフザピッチで育まれてきた選手の主体性。

その主体性をオンザピッチにまで広げ、活かすことで筑波ならではのサッカーが体現されたのである。


ここに、筑波大学女子サッカー部が5年ぶりのインカレ出場を成し遂げた理由があるのではないだろうか。


 常に上を目指し、変化し続ける筑波大学女子サッカー部


その先に見据えるのは、筑波大学女子サッカー部から『大学女子サッカー』を盛り上げること

筑波大学女子サッカー部が『大学女子サッカー』を牽引すること


 簡単なことではないが、オフザピッチ、オンザピッチの両方において、真面目に、主体的にに取り組むことができる筑波大学女子サッカー部には、それを可能にする力が秘められているのではないだろうか。

SHARE

RELATED EVENT関連イベント

DOWNLOAD資料ダウンロード